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《PASS便り》 2021年9月号

PASSグループの進捗情報などを、
 【近況】
 【今後の予定】
 【おまけコーナー】
の3本立てでお届け。
 毎月15日発行。


──────────


【近況】

〇PASSグループ
現在、緊急事態宣言に伴い活動規模を縮小してます。


【今後の予定】

〇Project-Pandora
次回生放送を10月以降に予定しております。
※新型コロナウイルスの感染状況によっては延期となります。


【おまけコーナー】

《パスシス物語》
PASS:3 3女・ドラ子/転成したらドラ子だった件について


 目が覚めると、”見慣れた天井”だった。
 1人部屋を貰ってから数年が経ち、最初こそ違和感を覚えた目覚めの風景も今は日常のものである。

 おかしなことは人生レベルで何もない。
 物心がついてからの記憶にかけたところはないし、他人に脳みそや精神をいじくられたこともなかろうし、
 であればいつものように目覚めた私は、足し引きすればおおよそ平均的といって差し支えなかろう現代女子中学生の一人としての生活を過不足なく過ごすだけである。

 ありふれた毎日というものを毛嫌いしているわけでもない。
 幻想に恋い焦がれて異世界のへの入り口を探してもいない。

 それでも目覚めた時、見慣れた天井をみつめ、数秒ではあれ動きが止まってしまうのは、”見慣れた天井よりも見慣れた天井があったはずなのだが”と、心のどこかが疼くからだろう。

 ましてや夢をみた時は…
 夢の話など、他人にとっては現在の天気の話題並にどうでもよいことである為口にしないが、おそらくは同一世界の夢を私は稀によく見る。

 そこは剣と魔法とスチームパンクにデジタルパンクが混じりこんだ世界で、カミが世界を生み出し人間が生まれ右往左往し、そして世界が暗闇にとざれるまでに長い歴史があり、そして終わると同時にまたカミが世界を作り世界が始まる…絶望的な喜劇の世界である。

 夢のシーンは時と場合様々であるが、その夢を見た時ほど”見慣れた天井”に違和感を覚える。
 まるでここは、お前の世界じゃないんだぞ、と誰かに念押しをされているかのようなざわめきを覚える。

 お前の本来いるべき世界は、”そこ”ではなく”ここ”で、もっと泥臭くて、魂がじりじりとすり減っていくような場所なんだぞと…そう、誰かに語り掛けられているようなきになる。

 冷静になれば、
 小学校も卒業しているというのに何を子供めいたことを…と思う。
 いや、年齢的には十分子供であるし、そもそもが『中二病』を罹患している自覚がある私であるから、この朝のできごともまた症状の一つなのかもしれない。

 その一方で、”もしや”を捨てられない自分もいる。


 だが、まぁ、別にそれだけである。


 仮に、私がどこか別の世界の誰かであった時期があったとして、

 私は今、私なのである。

 

 ベッドから抜け出し、テーブルにおいてあるタロットカードをおもむろに手を伸ばす。
 シャッフルし、一つに束ねる。


「…長女、エイ子」

 姉の顔を思い浮かべカードを捲る。
 描かれたイラストは『太陽』。


「次女、セイ子」

 カードは『月』


「4女、ユウ子」

 カードは『星』


 その3枚のカードの結果をみて、小さく笑う。
 あぁ、これで何回目だろうか。
 大アルカナとよばれる、22枚のカードだけを使った簡易なものとはいえ、姉妹のことを占う時…
 もしや、私と同じように、”姉妹もまたどこか別のどこからか着た者ではないのか”とふと思ったあの時から、姉妹の前世とでもいうべきなにかを占うと…

 必ず、これらのカードが現れる。

 何度やっても、

 何度やっても、

 今日の運勢だとか、これからやってくる問題とか、質問と状況が変わればちゃんとでてくるカードは変わるのに、前世占いとでも称するこの占いの結果だけは、依然変わらない。

 そしてもちろん私も…

「…塔のカード」

 今日も見慣れたカードの結果を確認したのち、部屋を出る。


 これは科学的な根拠はない妄想的なことだけど…
 私を含め、うちの姉妹は何かどこかから、この世界に生まれついた何かなのかもしれない。
 それぞれはそれぞれに別の特徴を有する世界にいたが、なんらかのきっかけで…あるいは偶然で…または大きな意思かなにかによって…この世界での形を与えられて、ここにいるのかもしれない。

「…おはよう」

 リビングで朝食の用意をしている長女に声をかける。

「おはよう…ん? 怖い夢でもみたの?」
「いや…大丈夫。いつものこと」
「そう…何かあったらいってね?」

 長女とはこうも恐るべきものか…
 昔は…情緒が安定する前は、いつもの夢を見ただけで姉に泣きついていた私である。
 そんな私の顔を見ただけで今日もまたそれをみたことを察した姉は、私の頭をぽんぽんとあやし、気恥ずかしさからその手を払いのけてしまう前にするりと食卓の準備へと戻ってしまう。

「おっはよう! あ、借りてたマンガ今日返すね! 感想はバイト終わってからで!」

 背中から活力のある声をかけてきたのは次女。
 朝から活動的な次女に私が返した「おはよう」が届いたかどうかは定かではないが、これもまたいつものことだ。

「…うぅー」
「ん、おはよう」

 おそらくは朝の挨拶であろう…
 細い眼を細いままに片手をあげた妹の手に、私もまた手を合わせて挨拶を返すと、細い眼のまま妹はにへらと笑う。


 そして私たちは準備を終えると、それぞれに家を出ていく。
 一つ屋根の下に暮らす家族といえど、四六時中共にいるわけではない。
 それぞれにはそれぞれがあり、睡眠時間や学業を含む外での生活のことなども考えると、一緒にいる時間は想像以上に短いのだが…

 その時間が嫌いじゃない。

 私は、彼女たちとの…あえて姉妹のことを彼女たちと表現するが…彼女たちとの生活は嫌いじゃない。

 私だけでは起きえないことを起こし、私だけでは思いつかないことを思いつき、それらは繰り返す夢の世界では見れない景色を生み出してくれる。

 そして、彼女たちにとっての私も、私にとっての彼女たちなのだろう。
 …そうだといいと思う。

 日常の大半は、無味無臭でありきたりで、わざわざ文面に起こすほどのことではないものである。
 そんな毎日だって、それはそれでおもしろい。
 一方で、日常の大半ではないアクシデントや、人生レベルの大事件だって、それはそれでおもしろい。

 そしてそのおもしろいは、交わったから生まれてくるおもしろさなわけで…
 それはきっと、外からみてもおもしろいのだろう。

 ナニカがそれを狙って私たちを集めたのだとしたら、思惑通りであることに腹立たしさを覚えなくもないが…同時に謝意を示そう。

 外からみてるアナタが楽しんでいるのであれば、それは私からアナタへの対価である。
 このような別の世界を、人生を、物語を与えてくれたアナタへの対価であり、もしアナタとやらが私の、今のこの些末事をのぞき見しているのであれば、一つおまけでいっておきたいことがある。


 いいかい、アナタ?


 ―アナタがどれだけ外からこの世界を面白がっても、今ここにいる私のおもしろいという感情は私だけのものだ。


 くやしがれ、カミ様。


 4姉妹の3女、ドラ子より。


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あなたに“ぴったり”の記事はありましたでしょうか。
次号も、お楽しみに。

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